このたび、日本寄生虫学会の理事長を拝命いたしました宮崎大学医学部・感染症学講座・寄生虫学分野の丸山治彦と申します。本年は、学会の前身である「東京寄生虫同好会」の発足(大正10年、1921年)からちょうど100年という意義深い年に当たります。寄生虫と寄生虫疾患に関する学術の研究を通して社会に貢献していくという本学会の使命を果たせるよう、会員のみなさまと一緒に努力して参りたいと思います。
 さて、わたくしが日本寄生虫学会の会員になったのは1986年、今から35年前です。当時と今とでは、寄生虫学も寄生虫学の外の世界も、そのありようは大きく変わりました。寄生虫学では、分子生物学技術の本格的な導入やゲノム情報の整備、分析技術の精密化により、寄生虫と寄生虫感染症の分子・細胞レベルでの理解が格段に深まりました。また、遺伝子診断技術も一般化しました。外の世界では、感染症のグローバル化・ボ ーダレス化などは、もはや口にするのもはずかしいほど当たり前のことになっています。
 こんな中、わたくしは3つの視点を意識して日本寄生虫学会の活動を推進していきたいと考えています。それは、基礎科学としての寄生虫学、実学としての寄生虫学、そして娯楽としての寄生虫学です。
 基礎科学としての寄生虫学とはあらためて申し上げる必要もない基本です。宿主特異性や臓器特異性といった、寄生虫学における根源的な問いへも果敢に挑戦していきたいと思います。なぜ、どのように寄生虫はその宿主を、その臓器や細胞を選んでくらしているのか。寄生虫を深く知ることは、われわれ自身についてもっと深く理解することになるでしょう。
 実学としては、新規診断法開発、感染対策、サーベイランス、ワクチンや新規抗寄生虫薬の開発などがあげられるでしょう。臨床の現場から上がってきた疑問や問題点に的確かつ迅速に対応していくことが重要で、特に海外においては、寄生虫症はいわゆる顧みられない熱帯病の大構成要素です。ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の達成に向け、日本の寄生虫学の存在を示していきたいと思います。
 娯楽としての寄生虫学というと怒り出す人がいるがいるかも知れませんが、実話系バラエティ番組で定期的に寄生虫が取り上げられたり、寄生虫についての一般書籍に常に一定以上の売り上げがあることを考えると、世の中には寄生虫についての興味、もっと知りたいという需要があることは確実です。基礎研究や国内外での社会貢献活動を土台に、寄生虫の不思議と魅力を一般の方に伝え、知的欲求に応えていくことは学会の責務でしょう。
 小野不由美さんのファンタジー小説「十二国記」シリーズの短編集「華胥の幽夢」に収録されている「冬栄」という作品に、「仕事は自分で選ぶものです。お役目は天が下すものです」という科白が出てきます。今回の理事長職を天の寄生虫が下したお役目と心得て、日本寄生虫学会からすばらしい研究成果が生まれ、学術と社会の発展に貢献できるよう、最善を尽くしたいと思います。会員の皆様方のご指導ご鞭撻、ご協力を、どうかよろしくお願い申し上げます。

 

2021年5月吉日
丸山治彦

理事長Twitter
(注:理事長Twitter内での意見は、理事長の個人的な見解であり、学会の公式見解ではありません。)